B:脱走の肉牛 ウーヴウーヴ
ラヴィリンソスでは、畜産技術の研究も行われています。その研究対象のひとつが、アジムステップ原産のヤーコウ……現地でケナガウシと呼ばれる家畜です。これを飼育して、食料生産にも役立てているんですが、あるとき肉牛として出荷予定だった1頭が脱走しましてね。これが、「ウーヴウーヴ」です。
奇妙な名前だと思いますか?実はこれ、アウラ族の遊牧民が牛を呼ぶときの掛け声なんです。調達に関わったグリーナーが、個体名と勘違いしてたんですよ。
~ギルドシップの依頼書より
https://gyazo.com/edcffb62b9bf931872fd68f4ce32a500
ショートショートエオルゼア冒険譚
私は朝から機嫌が悪い。
肉好きグルメの私はラヴィリンソス産の食肉が最高だとの噂を聞きつけ、最高級のブランド牛を一頭買い付けた。そもそもラヴィリンソスは、シャーレアンの賢人たちが世界から集めた資料を貯蔵するための施設だが、霊災の発生への備えとして食糧難を見据えて如何なる環境でも収穫量が減らないような農作物や、より良質な食材を確保するための畜産技術の研究なども行われている。その研究対象の一つがアジムステップ原産のケナガウシだ。このケナガウシの生殖能力の向上や、その肉質をより上質で美味にするための対畜産技術の研究が続けられていて、その甲斐あっていまやラヴィリンソスの食肉は世界でも最高ランクのブランド食肉となっているのだという。
現在世界中の食通や富豪、王族、貴族から注文が殺到しているらしく最初は5年待ちだと言われたが、そこで引き下がる私ではない。今まで培ってきた政界や財界のコネを駆使して半年待ちまで期間を短縮させて、相場より高値で「ウーヴウーヴ」と名付けられた最高級のケナガウシを買い付けた。
納品日に合わせて一世一代の見栄を張るため試食会と称した自慢パーティーを企画し、そのために屋敷の内装を絢爛豪華にリフォームし、ウルダハのから王族御用達の食器類も取寄せた。当日はエオルゼアでトップのレストランと名高いリムサロミンサのビスマルクのオーナーが渋い顔をするのを札束で頬を叩いてトップシェフを呼び寄せる手はずも整えた。思いつく限りの贅を尽くしたパーティーの準備も万全に整え、少し無理をした人選の招待客にも招待状を送付した・・・・にもかかわらずだ。
にもかかわらず、今朝になってラヴィリンソス、アルケイオン保管院の畜産部から私が買い付けたケナガウシが牧場から脱走したとの連絡が入った。現在捜索中だが見つからない場合、代替えの牛を手配するが納品は3ヶ月から4ヶ月遅れるという。私はリンクルパールに怒鳴り散らしたがそれでどうにかなるわけではない。どうしろというのだ、パーティーは一週間後だぞ。
私は藁をも掴む気落ちでギルドシップに依頼した。その日の午後にはギルドシップから担当を名乗る男とハンターが訪ねてきた。ギルドシップ用意したハンターは見るからに小生意気な女2人組だった。
「ギルドシップにはこんな小娘しかいないのか?大丈夫なのか、失敗は出来ないんだぞ?ん?」
挑発気味に言った私の言葉にも3人は表情一つ変えなかった。
「今動けるのはこのお二人です。お気に召さないようならギルドシップから人は出せませんね」
男の声は事務的だった。男が言い終えると生意気そうな小娘のうち翠髪ミコッテの女が口を開いた。
「受けるについてはコチラからも条件があるんだけど…」
「なんだと?」
どうせ法外な金銭を吹っかけてくるつもりだろう、私はそう思って身構えた。
「とりあえず、なんでもいいから食事ご馳走してくれない?もう二日食べてないの」
「へ?」
私は意表を突かれて変な声を出した。
「そろそろ仕事しないとお金なくなるよって散々言ったのに」
ヒューランの女が不満そうにミコッテに囁いている。
「だってしょうがないじゃん、こんなに仕事がないなんて思ってなかったんだもん」
彼女らはコショコショと小声で言い合っていた。
私は手を挙げて執事を呼ぶと軽食を用意するよう伝えた。
私は彼女らが部屋に入ってきた時よりもっと強い不安を感じていたが背に腹は代えられない。私は止む無くこの二人に任せることにした。
ラヴィリンソスの畜産部から連絡が入ったのはその3日後の事だった。ギルドシップから派遣されたハンターが不眠不休で探し回り、私が買い付けたウーヴウーヴを見事発見して連れ帰ったという。予定通りの納品が可能だという事だった。
不安で眠れない夜を過ごした私は、無理をしてまで招待した来賓からの信用を落とさずにすんだ安堵感でその場にヘロヘロと膝から崩れ落ちた。
あの小生意気に見えた小娘共が今は女神か天使に思えて、この場に居たら抱き締めていたに違いない。
後日報酬を受け取りに来た彼女らにそう伝えたら彼女らは「その場にいなくて命拾いした」とケラケラと無邪気に笑った。